鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


死産(Stillbirth)とは妊娠20週を過ぎてから胎児が死亡することです。妊娠20週以前に胎児が死亡した場合は流産(misscarriage)といいます。
多くの場合は原因は不明ですが、死産をおこしやすい危険因子はいくつかあります。妊娠中に気をつけていれば20-30%の死産は防げるかもしれません。

死産になる危険因子

*先天異常: 胎児の体や機能に生存できないような致命的な欠陥がある場合
*早産: 発育が未熟なため、生存できない場合
*胎児発育遅滞: 体内での発育が遅れていて出産しても胎外では生存できない場合
*母体の病気: 糖尿病、腎臓疾患、心疾患、妊娠中毒症など
*出産時の合併症: 逆子の出産や鉗子分娩の合併症など
*臍帯結節: 臍帯が胎児の首に巻き付き、血液が脳に送られなかった場合
*胎盤の異常: 胎盤早期剥離や前置胎盤からの出血など
*高齢妊娠: 35歳以上、特に38歳以上の場合
*肥満体: 特に高齢妊娠であればリスクはより高まります
*感染症: 風疹、トキソプラズマ、水疱瘡、梅毒など
*睡眠時の体勢: 仰向けに寝た場合
*喫煙、飲酒: 妊娠中の喫煙や飲酒は胎児にあらゆる悪影響を及ぼします
*怪我: 母親のお腹に大きな衝撃があった場合、家庭内暴力も含む

妊娠中の注意事項

もちろん糖尿病や高血圧の妊婦さんはこれらの疾患をよくコントロールしておくことが大切ですが、死産はこのような病気を持っている妊婦さんでなくともおこる可能性はあります。よって、妊婦さん全般に適応する注意事項が次の5点あります。

喫煙

死産と最も関連が深いのはタバコです。喫煙は死産だけでなく、妊娠中には他にも悪影響を及ぼします。流産、胎盤早期剥離
早産、乳幼児突然死、低体重、在胎期間軽小児など。その他にも小児癌、呼吸器疾患(喘息)、神経行動疾患などとの強い関連があります。受動喫煙でもやはり妊婦と胎児には健康面でのリスクがあるようです。喫煙は胎盤の発達に影響を及ぼし、胎盤の血流を悪くすることによって胎児の発育を妨げたり、流産、死産のリスクを高めます。もし、喫煙者であれば、妊娠がわかり次第早急に止めることが大切です。

 

胎児の発育

在胎期間軽小児(Small for gestational age, SGA)の赤ちゃんは新生児死亡、周産期死亡、それに大人になってからの健康問題がおこるリスクが高まります。
在胎期間軽小児がおこる危険因子はいくつかあります。
妊婦の低身長、低体重、アジア系人種、未産婦、妊婦自身が在胎期間軽小児として生まれた場合、抗リン脂質抗体症候群、喫煙、コカイン乱用、高齢妊娠(特に40歳以上)、過去の死産の経験、肥満などがあります。また、妊娠中の危険因子として重度の出血、妊娠中毒、妊娠高血圧などがあります。
リスクの高めの人は胎児の発育に注意を払う必要があります。低容量アスピリン、頻繁な超音波検査などが行われます。子宮動脈の超音波ドプラ検査が必要となることもあります。なるべく取り除ける危険因子は取り除き、緑食葉野菜や果物をよく摂ることも効果があるようです。

胎動

胎動を始めて感じるのは妊娠16-20週で、はじめはぴくぴくとするような小さな動きですが、胎児が成長して大きくなるとともにあらゆる動きを感じるようになり、動きの大きさも増していきます。妊娠28週以降の妊婦さんを調査した結果では、多くは夜間、特に就寝時のころの動きをより活発に感じるという現象 があるようでした。そして、夜間の胎動が静かだと感じた妊婦さんにおいては死産のリスクが高まるようです。妊娠後期、出産間際になると胎動が少なくなるというのは思い違いで、健康な胎児は出産直前まで元気よく動きます。
いずれにしろ、どの時期でも胎動がなくなったり少なくなるということは危険信号なので、すぐに医師、あるいは産婦に連絡をとり、胎児心拍陣(Cardiotocography, CTG)いう検査を受け、状況を確認することが大切です。

 

就寝体位

妊娠28週以降に仰向けに寝ることも死産の危険因子です。背臥位(仰向け)で寝ていると大静脈や大動脈が圧迫されることがMRI検査や超音波検査でわかっています。また、背臥位のときは胎動が静かなのに対し、横向けに寝ると胎動が活発になることもわかっています。また、その他の調査でも、妊婦が横向けで寝ていると妊婦の血中酸素飽和度が背臥位と比べて高く、胎児の心拍数の減速も少なくなるようです。ですから、就寝時、あるいは夜間にトイレなどに行ってベッドに戻ったとき、それに昼寝のときには始めに背臥位で寝ることが薦められています。もし、途中で目覚めたりしたときに背臥位になっていたりしても、あせらずにまた横向けになれば大丈夫です。眠りについた時の体位が就寝中に最も長く保たれる体位です。

出産のタイミング

どの妊娠に関しても自然に陣痛がおこってくるのを待って出産することが理想的です。しかし、死産になる危険因子を持っている妊婦さんにおいては入念な経過観察が必要で、胎児が危ない状態になっていれば予定日よりも早く出産することが必要となってきます。なるべく満期分娩が望ましいわけですが、待っていることが死産のリスクを高めるようでしたら出産を早めなければなりません。妊娠35週の胎児の脳の大きさは40週の胎児の脳の約3/2です。出産が早ければ早いほど新生児集中治療室での治療が必要となったり、後々に学習障害がおこったりする可能性が高くなります。妊婦さんと産婦人科医のあいだでよく話し合った上で出産のタイミングを決めなければなりません。

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