鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice
多血小板血漿(Platelet rich plasma)治療と脂肪由来幹細胞治療(Adipose derived stem cell therapy)は最新の医療で、慢性の筋骨格系統の疾患に対する効果や美容整形の分野での効果が期待されています。
炎症を抑え、損傷を受けたり老化した組織を再生させる効果があるようです。どちらも自己由来の細胞を使用する方法なので、拒絶反応やドナーからの感染症などの心配がなく、治療者の技術や患者さんの慎重な選択が適切であれば安全な治療法と言えます。
多血小板血漿注入療法
人間の血液にはいくつかの構成要素があります。液体部分は血漿と呼ばれ、細胞部分は血球があります。血球には赤血球、白血球、それに血小板があります。赤血球は120日生存しますが、血小板は7日ほどです。血小板は赤血球と白血球に比べて小さく、数も血球全体の約1%です。
血小板には2つの働きがあります。1つは止血効果です。傷がおこり、出血した場合に、血小板が多数集まり、出血部位にプラグを作り、出血を止めます。2つ目は創傷治癒効果です。血小板には3種類の顆粒が含まれていて、その中のアルファ顆粒(Alpha granules)にはいくつかの増殖因子が含まれています。血小板は血液中を循環しているあいだは休眠状態ですが、どこかに傷が起きると活性化され、止血を促すとともに傷の治療のためにあらゆる増殖因子をアルファ顆粒から放出します。
血小板に含まれる増殖因子
1)血小板由来増殖因子(PDGF – platelet derived growth factor)
細胞の再生を刺激する効果
血管の形成の促進
上皮細胞の形成促進
肉芽形成の促進
2)トランスフォーミング増殖因子(TGF – transforming growth factor)
細胞外マトリックスの構築促進
骨細胞の代謝調整
3)血管内皮増殖因子(VEGF – vascular endothelial growth factor)
血管形成の促進
4)上皮増殖因子(EGF – epithelial growth factor)
細胞の分化促進
再上皮化、血管形成、コラーゲンの産性促進
5)線維芽細胞増殖因子(FGF – fibroblast growth factor)
内皮細胞と線維が細胞の増殖促進
血管形成の刺激
上記の増殖因子以外に血小板はいくつかのサイトカイン(Cytokine, ホルモン様の低分子淡白)を分泌し、免疫反応の強さと持続期間を調節し、細胞同士の情報交換を媒介する役目があります。
血小板に含まれるこれらの増殖因子とサイトカインが治療効果を発揮するには通常の血小板数の約5倍の数が必要です。しかも血小板を活性化させ、増殖因子を放出させることも大切です。
多血小板血漿
PRP療法(多血小板血漿注入療法)は上記の理由により開発されました。この方法では、患者さんの
血液を採取し、遠心分離によって血小板を含んだ血漿部分と、その他の要素を分離し、高濃度の
血小板の部分だけを注射器に取り、身体の損傷部位に注入します。PRP の注入量は損傷の起こっている部位によって多少異なりますが、1部位あたりに必要な採血量は20~30mlです。血小板の濃度が低すぎたり、血小板が壊れていたりすると増殖因子が充分に放出されず、治療効果が低下するのでPRP作成用の標準化されたキットがほとんどのクリニックでよく使われています。
PRP治療で効果があるとされているコンデイッション、疾患
*美容整形分野
目の下のしわ 目の下のクマ、ふくらみ、たるみ
法令線 おでこのしわ
唇の縦じわ ニキビ痕
火傷 皮膚外傷
肌の張り など
整形外科分野
手 ー関節炎、腱鞘炎、靱帯損傷など
肘 ーテニス肘、ゴルフ肘
肩 ー回旋筋腱板炎、関節唇損傷、変形性肩関節炎など
股関節 ー変形性股関節炎、関節唇損傷など
膝 ー変形性股関節炎、靱帯損傷、半月板損傷、など
足 ー足底筋膜炎、アキレス腱損傷、靱帯損傷など
筋肉 ーハムストリング (大腿の後側の筋)、大腿四頭筋、ふくらはぎの挫傷、裂傷
PRP治療の副作用
自己由来の細胞を使うのでアレルギー反応、癌などの副作用はまずおこりません。しかし、衛生処置をきちんと施していなければ感染症がおこったりすることもあります。また、注射のときに神経や血管を傷つける可能性もありますが、このような問題はまれです。注射時に局部麻酔を使用した場合、その成分に対するアレルギー反応がおこることもあります。
PRP治療ができない場合
*癌患者
*感染症
*低血小板数、抗凝固療法を受けている患者さん
*妊婦、授乳中の人
ステロイド注射との比較合
関節炎、腱鞘炎、筋肉挫傷などにはステロイド注射がよく使用されますが、ステロイドは一時的に炎症を抑え、痛みを抑える効果があります。PRP治療では、やはり炎症を抑え、痛みを抑える効果もありますが、その上にダメージを受けている組織の回復を促進させる効果が期待されています。治療効果が現れるまでの時間はステロイドのほうが早めですが、逆にその効果が持続する時間も短めです。ただし、この効果には個人差がありますので、1回のステロイド注射で何ヶ月、何年も症状が和らいでいるというケースもあります。また、PRPの場合、通常4-6週間あけて2度目、3度目の注射をする
スケジュールが組まれます。
PRP治療を受けるにあたって
この治療法はまだ確実に科学的に効果があると認められた方法ではありません。治療を受けるのでしたら整形外科、あるいはスポーツ医療、あるいは形成外科の資格を持っている医師で、そのクリニックでの症例数、成功率などを詳しく説明できる機関を選ぶべきです。また、この治療法は奇跡的なものではなく、極度に進んでいる関節炎などでは効果は期待できませんので、このような治療に関する限界をよく説明し、実際に治療に適しているかを明確に説明できる医師を選択することが大切です。
この治療は保険の対象となりませんのでほとんどの場合は自己負担となります。治療費もクリニックによって違います。数百から数千ドルになりますので治療前に確認しておくことも大切です。