情報提供:アドバンテージ・パートナーシップ外国法事務弁護士事務所
国際仲裁弁護人・国際調停人 堀江純一(国際商業会議所本部仲裁・調停委員)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)専門家

概要
オーストラリア連邦憲法(Constitution of the Commonwealth of Australia)は「硬性憲法」の1つと言われています。豪州法務の第124回では、連邦憲法の改正の仕組みについて、日本国憲法と比較しながら考えてみます。

憲法改正の仕組み

 オーストラリアの憲法改正手続きは、連邦憲法128条に規定されています。それによると、憲法改正の手続きは、憲法改正法案での上下両院での通過、国民投票で全投票者の過半数が賛成をし、さらに、過半数の賛成がある州が過半数(全6州のうち、4州以上)を超え、最後に総督が裁可した場合に改正することが認められています。国民投票において二重の承認が必要なのです。これはしばしば、「2重の過半数性(double majority)」と呼ばれます。また、連邦議会の通過を含めると、三重の過半数が必要となります.この規定は、憲法の改正を著しく困難にしているようです。1901年の連邦結成以来、提案された憲法改正案は44件ですが、そのうち承認されたのは8件だけです。

さて、日本と比べるとどうでしょうか。日本国憲法は96条で、「この憲法の改正は、各議員の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案して承認を得なければならない」としています。これがどういうことかというと、まず始めに国会議員により憲法改正案の原案が提出され、両院それぞれで総議員の3分の2以上の賛成で可決した場合にはじめて国民に提出することができます。憲法改正に対する賛成の投票の数が、投票総数の過半数を超えた場合に承認とみなされます。このように、憲法改正の手続きのハードルが高いため、硬性憲法であるとしばしば言われています。現在の日本国憲法は1947年に施行されて依頼、今日まで一度も憲法改正を経験していません。憲法改正の手続きのハードルの高さを物語っています。

こうして比べてみると、オーストラリアは硬性憲法と分類されてはいるものの、硬性憲法の中でも憲法改正のハードルが低い方であるという見方をすることができます。ドイツやフランスのように、次々憲法が変わる国と比べると厳しい規定が設けられていますが、日本と比べるとそこまで厳しくないのです。

では、そもそもなぜ日本はここまで憲法改正のハードルが高い硬性憲法なのでしょうか。その理由は、日本国憲法が施行された1940年代にさかのぼります。第2次世界大戦において、軍国主義であった日本は悲惨な戦争に加わり、そして敗戦しました。その反省から、戦力を持たないこと、戦争をしないこと、再びアジアの脅威とならないように「第9条」の戦争放棄に関する規定を、GHQが定めたのです。また、憲法改正のハードルを高く設定しておくことで、国家の継続的な安定性を確保することを目的としていたのでしょう。

しかし、時代とともに人々の価値観は移り変わり、それに伴って国家も変わっていくべきだとする意見があります。確かに、70年も経てば、人々の価値観は大きく変容しているでしょう。それなのに、国家は前時代的な価値観に取り残されている。それは果たして民主主義的なのでしょうか。

しかし、だからといって安易に、憲法改正条項である96条を改正し、今後の憲法改正の手続きのハードルを下げようという結論に至るのは、危険なのではないかと思います。そもそも、憲法改正条項96条を改正する権限は、何に根拠があり、誰に与えられているのか、明確にされていません。これについては、憲法の中に見出すことはできません。法的根拠が無いのです。それは、野球選手が9対9の約九のルールを変える資格を持たないのと同じようなことです。9対9のルールを変更し、人数を増やしてまで試合に勝ちたい、というのは、スポーツマンシップに欠けていますし、そもそも野球というスポーツの意義が失われてしまいます。憲法についても同じようなことがいえるのではないでしょうか。憲法を改正するということは、憲法の根本的な理念が失われるということでもあるという解釈もできます。

オーストラリアの憲法は、政権の実効性を保証しながらも、その汎用を防止する役割としての憲法をうまく取り入れているという評価をすることができます。時代の流れに迎合しながら、権力の拡大を防止する。そのような仕組みがある程度確立されているといえます。こうした理念は、施行後70年経った今も一度も改正されていない日本国憲法の参考になるのではないでしょうか。

注意事項:
本稿は法的アドバイスを目的としたものではありません。必要に応じて専門家の意見をお求めください。
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