情報提供:アドバンテージ・パートナーシップ外国法事務弁護士事務所
国際仲裁弁護人・国際調停人 堀江純一(国際商業会議所本部仲裁・調停委員)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)専門家
オーストラリアの不動産賃貸借の「更新オプション」とは何ですか?
概要
商用不動産等を賃貸借する場合、借主が、契約期間が終了した後にさらに期間を延長し、1回もしくは数回、契約を更新する権利を、「更新オプション(Options to renew)」といいます。本稿では、更新オプションについて説明します。
「更新オプション」とは何か?
更新オプション(Options to renew)とは、既存の賃貸借契約が満了した際に、借主が貸主に対して賃貸借契約の更新を求める権利です。賃貸借契約では、通常、契約の更新は既存の契約と同じ条件であることが規定されています。しかし、賃料については、賃貸借契約における賃料見直しの仕組みに従って見直されます。
貸主は更新オプションを拒否できるか?
貸主は、契約期間延長のために新たな賃貸借契約を締結するかどうか、また更新オプションを拒否する権利があるかどうかを検討することができます。
更新オプションは技術的な問題で不成立になることがあります。貸主が新たな賃貸借契約を締結しないことを希望する場合、貸主は、借主との交渉やその他の取引によって、無効のはずの更新オプションの行使を受け入れることにならないように気をつけなければなりません。
借主に返答する前に、貸主は以下の点を考慮するべきです。
(1)借主の更新オプション行使は期限を過ぎていないか?
賃貸借契約には、更新オプションの行使可能期間が定められています。借主が指定された期間内に更新オプションを行使しない場合、その権利は失効します。ただし、貸主が更新オプションの期限外行使が可能であることを言動で示した場合、借主が期限内に更新オプションを行使する義務が放棄されることがあります。
借主からの更新オプション行使の通知が期限を過ぎており、貸主が新たな賃貸借契約を締結したくない場合、貸主は借主に返答する前に助言を求めるべきです。一般に、更新オプション行使の通知は所定の期間内(通常、現在の契約期間が満了する6カ月前から3カ月前まで)に行わなければなりません。
(2)更新オプション行使の通知は無条件か?
借主からの更新オプション行使の通知は、明確かつ無条件でなければなりません。借主の通知が条件付きである場合(例えば、借主が、貸主が特定の改装工事を行うことに同意した場合のみ行使すると通知している場合など)、借主の通知は更新オプションの有効な行使とはならない可能性があります。
(3)更新オプション行使の通知は適切に送達されたか?
通常、賃貸借契約には、貸主あるいは貸主に代わって通知書に署名できる者、通知書の送達先、通知書の送達方法(郵送、FAX、電子メールなど)に関する技術的要件が記載されています。借主が賃貸借契約の技術的要件を順守していない場合、貸主は更新オプション行使の通知が無効であると主張できる可能性があります。
(4)借主が賃貸借契約に違反しているか?
賃貸借契約では、借主からの更新オプション行使の通知が送達された時点で、借主が賃貸借契約に違反している場合、貸主は契約期間の延長を拒絶できるとするのが一般的です。
しかし、借主の違反により契約期間の延長を拒否する前に、借主が居住する州の関連法規を確認する必要があります。例えばクイーンズランド州では、1974年不動産法(Property Law Act 1974)第128条に基づき、貸主は、借主からの更新オプション行使の通知を受領した日から14日以内に、所定の通知を借主に送達しなければなりません。貸主からの所定の通知には、借主の違反を明記し、貸主が借主の更新オプションを排除する根拠として、その違反に依拠する意向であることを明記しなければなりません。その後、借主は1カ月以内に、借主の違反にもかかわらず、裁判所に更新オプションを許可する命令を求めることができます。また、貸主が1974年不動産法第128条に従わなかった場合、借主の違反にもかかわらず、貸主は更新オプションを受け入れなければならなくなる可能性があります。
(5)店舗賃貸借法が適用される場合、貸主に追加の義務はあるか?
賃貸借契約が、その建物が所在する州の小売店舗リース法(例えば、ニューサウスウェールズ州のRetail Lease Act 1994)の適用を受ける場合、更新オプションに関して、貸主が順守しなければならない追加義務が発生する可能性があります。
最近の判例によれば、裁判所は賃貸借契約の更新オプションの行使期間を厳格に解釈しています。稀なケースですが、裁判所は、借主が関連する期間外に更新オプションを行使することを認めています。例えば、更新オプションの満了日が貸主によって誤って記載されていた場合などです。
最近のニューサウスウェールズ州の事例では、最高裁判所は、使用された通知方法が賃貸借契約書に定められた条件を満たしていないにもかかわらず、更新オプションを行使できるかどうかを判断しなければなりませんでした。貸主は、通知が適切な手段で送達されていないとして、更新オプション行使の無効を争っていました。
この場合、借主は、リース期間満了の少なくとも6カ月前に通知することで、さらに5年間、リース契約を延長できる更新オプションを有していました。借主は規定された期間内に貸主に電子メールを送り、「次の5年間の更新オプションを行使したいので、この通知を受け取ってください」と伝えました。賃貸借契約書には一般的な通知に関する別個の条項があり、「貸主に手渡されるか、貸主のFAX番号に送信されるか、前払い郵便で送達される」とされていました。電子メールは形式的にも時期的にも要件を満たしていましたが、賃貸借契約書にはない通知方法でした。しかし裁判所は、この条項は指定以外の送達方法を排除して厳密に適用されるものではないとし、電子メールでの通知を有効として、貸主に更新オプションの具体的履行を命じました。
借主は、正しい時期に更新オプションを行使することに加え、更新オプション行使の通知が正しい書式であることを確認しなければなりません。
・正しい書式であること
・賃貸借契約書に記載された貸主の送達先住所に、貸主宛てに送付されていること
・賃貸借契約書に記載されていることが借主によって行われ、正しく執行されていること
・その他、賃貸借契約書の条項に従っていること
正しい通知を行い、更新オプション行使のための手続きを順守することは、簡単なことのように思われるかもしれません。しかし、実は非常に専門的であり、更新オプションの通知が正しく行われたかどうかをめぐって多くの裁判が争われています。
また、借主が意図していないにもかかわらず、怠慢で更新オプションが行使されないなどにも注意が必要です。
注意事項:
本稿は法的アドバイスを目的としたものではありません。必要に応じて専門家の意見をお求めください。
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