医 療
オーストラリアの医療に関して
海外で生活するうえで不安に感じることの一つに医療があげられると思います。
ここでは、オーストラリアの医療制度等についてご紹介いたします(情報提供:鳥居泰宏・一般開業医)。
はじめに
オーストラリアの医療は、大都市は医師過剰、僻地では医師不足という傾向はありますが、その水準は全国で一律しています。医師や病院の対応も、英語が得意でない人に対して比較的慣れているということも言えるでしょう。もしどうしても大事な点がうまく伝わらないような場合は、電話医療通訳を利用することもできます。日本語医療通訳も有料で受診時に立ち会ってもらうこともできます。
1.医療制度
(1)メディケアー
オーストラリアの医療制度は、国民健康保険であるメディケアーが基盤となっています。メディケアーを運営するための資金は、国民の税金で、課税収入の2.0%がMadicare Levyとしてが徴収されています。原則としてメディケアーはオーストラリア市民権、あるいは永住権の保持者でないと加入することはできません(日本からの学生ビザ、ワーキングホリデービザやビジネスビザを持っている人は加入する資格がありません)。
メディケアーでカバーされる医療項目は公立病院での治療費すべて、医師の診察費(全額、あるいは一部)、検眼費、レントゲンや血液検査などの検査費(全額、あるいは一部)などです(全額カバーかあるいは一部負担が必要であるかは各医師、あるいはそれぞれの検査機関の方針によって異なります)。
メディケアーでカバーされない項目は歯科治療、薬品代、物理療法、カイロプラクティック、コンタクトレンズや眼鏡の費用などです。例外として慢性疾患を複数持っている患者さんは一般開業医でChronic disease management planで特別な紹介状を書いてもらえば物理療法、心理療法、カイロプラクティック、足痛治療医(podiatrist), 言語療法士などでの治療費をMedicareで一部負担できる事もあります。また、私立病院でプライベートの医師から治療を受けた場合の入院費、それに治療費の差額はカバーされません。オーストラリアでは医薬分業ですので医師が患者さんに薬を売るということはほとんどありません。
原則としてメディケアーは薬品代をカバーしません。しかし、この国にはPharmaceutical Benefits Scheme(PBS,薬品給付制度)という機関があり、処方箋を必要とする主立った薬に対して厚生省が援助しています。PBSのリストに載っている薬品であれば、比較的安い値で購入することができます(ただし、処方箋がなくて購入できるような薬に対しては援助はありません)。
また、低額所得者や慢性疾患を持っていて薬品代がかなりかかる人のためにはメディケアーの安全ネットがあります。
(2)民間保険
国民健康保険であるメディケアーに対して民間保険(Private Insurance)があります。民間保険の主な役割は、私立病院に入院した場合の費用、任意付帯(眼鏡、物理療法、歯科、一部の薬品代など)のカバーです。オーストラリア市民にとって民間保険は補助的なもので、メディケアーだけでも最低限の医療カバーは得られます。ただし、無料ということで公立病院の需要が高いため、供給が間に合わなくなっているというのが現状です。さらに、公立病院で治療を受けた場合は、主治医を指定することはできません。外来の予約は数週間から数ヵ月待つことも多く、緊急でない手術などは数ヵ月のウェイティングリストをかけられることが通常です。民間保険に加入していれば私立病院での治療も安く受けられるようになり、柔軟な対応をすることが可能になります。
駐在員、学生、それにワーキングホリデーの人はメディケアーに加入することができません。このような海外ビジターのための医療保険(メディケアーと一般のプライヴェートの保険を総合したもの)は、MBF、 AON、Medibank Privateといった保険会社で用意しています。それぞれでカバーの内容が少しずつ異なっているので、加入する前に内容を確認し、自身に合った保険メニューを検討して下さい。大きな既往症に関しては、保険に加入後1年間は保険の適用はありませんし、妊娠に関しても加入する前に妊娠していた場合は、適用されませんので、予めご注意下さい。
日本で海外旅行障害保険に加入している場合は、海外ビジター保険のカバー内容と同じ内容になっています。ただ、妊娠、歯科治療、既往症に関してはカバーされていない、一つの疾患に関して受診した日から6ヶ月間しかカバーがきかないなど、注意しておくべき点もございます。なお、海外旅行障害保険の場合は、医師が処方した、あるいは推薦した薬はカバーされます。日本人を多く診ているようなクリニックでしたらキャッシュレスサービスも受けられます。
2.医師の診察
医師の診察費や治療費に関してはメディケアーが設定した規定料金(Schedule Fee)に基づいて扱われます。診察費は、その診察に要した時間、あるいは診察内容の複雑度によってItem Numberが定められており、それぞれのItem Numberに対してSchedule Feeが設定されています。
メディケアー、あるいは海外ビジター保険で診察費、治療費などをクレームする場合は、必ず領収書にItem Numberが記載されていないとクレームできません。また、定期健康診断やヘルスチェックは保険の対象とならないので、予めご注意ください。
Bulk-billingという方法は一種のキャッシュレスサービスです。医師によっては診察費の請求をこの方法で行っているところもあります。診察の際に患者さんのメディケアカードを特定のメディケアーフォームに記入し、そのフォームにサインしてもらいます。このフォームが何枚かまとまったところで医師がメディケアーに送って請求するということからBulk-billingという名称がついているようです。医師過剰による競争から生じた一種のディスカウントサービスですが、最近ではBulk-billingを行っているドクターの数は減ってきています。
その逆に、医師によってはメディケアーのスケジュールフィーよりも高い、オーストラリア医師会(Australian Medical Association, AMA)が設定したスケジュールフィーに基づいて請求する場合もあります。この場合、患者への返済額は、メディケアーのスケジュールフィーに基づいて行われるため、患者の個人負担額が多くなります。
海外ビジター保険の場合、メディケアースケジュールフィーを用いる会社とAMAのスケジュールフィーを用いる会社、あるいはどちらのスケジュールフィーも引用せずにとにかく請求された額を100%支払う会社とがあります。いずれにしても診察費をクレームする際、領収書に Item Number が記載されていることが必要です。
3.一般開業医と専門医
オーストラリアの医療は一般開業医と専門医に大きく分担されています。ほとんどの軽い病気や怪我は一般開業医で診てもらい、もっと複雑な問題は各専門医に紹介されて診てもらいます。その他に緊急を要することでしたら最寄りの緊急病院に行くことになります。緊急病院で受診する場合は紹介状は必ずしも必要ではありません。もちろん、その患者さんをよく知っているファミリードクター、つまり一般開業医による過去の病歴、患者さんが使っている薬品のリスト、それに現疾患の経過などを詳しく書いた紹介状があれば役に立ちます。しかし、時間的に紹介状をもらっている余裕がないときには、直接緊急病院に向って下さい。
(1)一般開業医
一般開業医では風邪、小児科全般、湿疹、アトピー、皮膚のかぶれ、鼻炎、中耳炎、咽頭炎、喘息、高血圧、軽い怪我や骨折、膀胱炎、膣炎、婦人科検診、結膜炎など、広範囲な分野にわたって患者さんを診ています。一般開業医は個人で開業しているドクターからグループで大きなクリニックを営業しているところもあり、さまざまです。ほとんどの場合は予約制です(予約は当日か2~3日中にはとれるはずです)。一般開業医を選択する際、地域制限はまったくないため、友人や知人の薦めによることがほとんどです。多少遠くても合ったドクターが見つかればかまいません。特に前もって登録しておく必要はありませんし、医師を変えるのも自由です。
(2)専門医
もし、一般開業医の手に負えないような病気でしたら専門医を紹介されます。この際、一般開業医からの紹介状を持っていかないと専門医での費用をメディケアーでクレームすることができません。通常、紹介状は一年間有効です。それ以上に専門医に通う場合は一年に一度一般開業医に紹介状を更新してもらう必要があります。専門医でひととおりの治療が済み、病気が安定している場合は一般開業医に戻って検診を続けることが一般的です。専門医の予約は平均2~3週間先となりますが、忙しい専門医でしたら2~3ヶ月先のこともあります。専門医の選択は一般開業医に任せることがほとんどですが、周りの人から勧められた専門医に紹介してもらいたければ、その旨を一般開業医に伝えて下さい。
もし入院治療が必要な場合は、各専門医が使用している私立病院に入院することになります。
4.入院に関して
オーストラリアの病院は完全看護なので、付き添い人を雇ったりして病院に派遣する必要はありません。入院期間は日本と比較すれば短めです。これは、医学的にも患者さんの体をなるべく早くもとの状態に復帰させることが大事であるという考え方に基づいています。そのため、手術後でもなるべく早くベッドから出て歩いたりシャワーに入ったりすることを患者さんに促します。
病院の医師や看護婦さんへの謝礼の風習はないので、医師や看護婦もこのようなものを受け取ることは考えていません。もちろん、受け取ってはいけないという規則があるわけではありませんので、もしどうしても感謝の気持ちを示したいのでしたら、素直によろこんで受け取ってもらえるだろうと思われます。
入院に関してのあらゆる費用は退院時に一括して払うことはほとんどありません。外科医、内科医、麻酔医の費用、検査費などは退院後、それぞれ別に請求書が送られてきます。退院のときに支払うのは入院費や手術室や分娩室の使用費などです。
5.緊急の場合
大きな公立病院であれば24時間受診できるCasualtyという緊急病棟があります。ここでは命に関わるような緊急事態から風邪のような軽症まで受け付けています。重症患者が立て続けに入ってくれば当然軽症の患者さんは数時間も待たされることになります。大怪我、ひどい胸痛、腹痛、喘息、吐血、下血などがおこった場合は“000”に電話をして救急車を呼べば最寄の緊急病棟に運んでくれます。私立病院でも24時間体勢の緊急病棟を持っているところもありますが、数は少なく、メルボルンやシドニーのどの主要都市でも各都市に1~2院程度です。待ち時間は公立病院より多少短いはずです。
もし、風邪などでそれほど緊急を要しない場合でしたら、週末や夜10時頃まで営業の一般開業医のクリニックもあります。このようなクリニックは入院施設はありません。あるいは1~4人程度の小規模なクリニックなら時間外の往診をしているところもあります。一般開業医を選択する際に、有無も確認しておくとよいでしょう。